いんだがなあ。きっと偉くなれるんだけれど……。」
 老人はぴたりと歩みをとめた。そして次郎の両手を握って、彼を自分の方に引きよせながら、闇をすかして、その顔を覗きこんだ。
「お前は、まだ乳母やのことが忘れられないのか。」
 老人の声はふるえていた。次郎は叱られていると思って、握られた手を、無理に引っこめようとした。
「叱っているんじゃない。乳母やに逢いたけりゃ、このお祖父さんが今に逢わしてやる。だから、きっと偉くなるんじゃぞ。」
 次郎はしゃくり上げそうになるのを、じっとこらえてうなずいた。
 二人が、正木の家の門口に近づいたころ、北方の空を二つに割って、斜に大きな星が流れた。
「あっ。」
 次郎は、声をあげてそれを仰いだが、その光が空に吸いこまれると、彼の眼は、いつの間にか北極星を凝視《ぎょうし》していた。
 しかし、彼が「永遠」と「運命」と「愛」とを、はっきり結びつけて考えうるまでには、彼は、まだこれから、いろいろの経験をなめなければならないであろう。

    三〇 十五夜

 次郎が正木の家に預けられてから、十四五日の間は、ほとんど一日おきぐらいに、お民が訪ねて来た。もっとも、
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