人がどんな顔付をして、品物を受取るのか、それが、無性に見たくて仕方がなかったのである。
売立が始まってから、二時間もたった頃、竜一の父が診察着のままで、あたふたとやって来た。そして、俊亮に何かこそこそと耳打ちした。しかし俊亮は、
「御好意は有難う。だが、いずれ一度は始末をつけなければならんのでね。……いや、全くどちらにも相談なしさ。」
竜一の父は、軽くうなずいた。そして、すぐ角帯や洋服の間に割りこんで行って、どの品にも札を入れた。
眼ぼしい品がつぎつぎに彼の手に渡された。角帯や、洋服は、変な眼付をしておたがいに顔を見合わせた。次郎は、それが何を意味するのか、ちっとも解らなかった。彼はただ、いい品物がたくさん竜一の家にいくのだと思うと、いくらか安心した。
売立は夜の十時頃までつづいて、眼ぼしい品は大てい片づいた。残ったのは、虫の食った挟箱《はさみばこ》や、手文庫、軸の曲った燭台《しょくだい》、古風な長提灯《ながちょうちん》、色の褪《あ》せた裃《かみしも》といったような、いかにもがらくたという感じのするものばかりであった。
みんなが引上げたあと、俊亮と竜一の父とは、座敷に残って、
前へ
次へ
全332ページ中209ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング