皆で行ってしまったの。」
 次郎は、この二三日、お鶴が学校を休んでいたことを思い出した。
「どこへ行ったんだい。」
「遠いところ、……石炭を掘る山なの。……次郎ちゃんはそんなとこ行ったことないでしょう。」
「乳母やもそこに行くの?」
「ええ。……でも、……でも、ねえ次郎ちゃん、……」
 お浜は急に鼻をつまらした。
「乳母やは行かなくてもいいんだい。……僕んちに来ればいいんだい。……僕、父さんに……」
 次郎はそう言いかけて息ずすりした。
「次郎ちゃんは、そんなこと出来ると考えて? お母さんやお祖母さんが、きっといけないっておっしゃるわ。」
「…………」
「それに、ほら、こないだも次郎ちゃんは、お祖母さんに大変なことをなすったっていうじゃありませんか。」
「…………」
「ですから、そんなことお父さんにお願いしても、駄目ですわ。……それに次郎ちゃんは、もう乳母やなんかいなくても大丈夫でしょう。」
「だって、僕……」
「いけませんわ、そんな弱虫じゃあ。」
 お浜は急にいつものきつい声になって、おさえつけるように言った。
「違うよ。僕弱虫なんかじゃないよ。」
 次郎は弱虫と言われて興奮した。彼
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