たい衝動に駆られたが、すぐ思いかえして、それを放りなげ、下駄で散々にふみつけた。折箱の隅からは桃色の羊羹がぬるぬるとはみ出した。彼はお祖母さんの頭でもふみつけるような気がして、胸がすうっとなった。
間もなくお祖母さんが騒ぎ出した。むろん、みんなもそれにつづいて騒いだ。「次郎!」「次郎!」と呼ぶ声が、あちらからも、こちらからも聞えた。しかし、次郎はもうその時には風呂小屋のそばの大きな銀杏《いちょう》の樹の上に登って、そこから下を見おろしていた。
直吉の頓狂な叫び声で、みんなが畑に出て来た。ふみにじられた折箱を囲んで、さまざまの言葉が入り乱れた。
「まあ、何ということでしょう。」
お民が青い顔をして言った。俊亮はみんなのうしろに立って、腕組をして考えこんでいた。
「あれ、あれ、勿体《もったい》もない。」
お糸婆さんは、いかにも勿体なさそうに、そう言って、ぺちゃんこになった折箱を拾いあげた。しかし、どうにも始末に終えないとみて、お祖母さんの顔を窺《うかが》いながら、すぐまた地べたに放りなげた。
みんなはあきらめて、ぞろぞろと母屋の方に帰りかけた。
「おやっ。」とお祖母さんが銀杏の根
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