なかった。また、一人だけのけ者にされているのを気にしている、と思われるのも癪だった。で、彼は、つとめて平気を装《よそ》おうとして、非常に苦しんだ。それは、彼が負けぎらいな性質であるだけに、一層不愉快なことだった。いつも辛うじて自制はするものの、彼の腹の中では、真っ黒な炎がそのたびごとに濃くなって、いつ爆発するかわからなくなって来た。――およそ世の中のことは、慣れると大てい平気になるものだが、差別待遇だけは、そう簡単には片づかない。人間は、それに慣れれば慣れるほど、表面がますます冷たくなり、そして内部がそれに比例して熱くなるものである。
 ある日、次郎は、お祖母さんが小さな菓子折を持って離室に這入って行くのを見た。何処かの法事にでも行って来たらしく、紋付の羽織を引っかけていた。
 次郎は、今日もまた、恭一と俊三だけがそれを貰うのだと思うと、我慢が出来なくなった。で、お祖母さんの隙を見て、これまでめったに這入ったことのない離室に、こっそりしのびこんだ。
 菓子折は違棚の上にお祖父さんの算盤と並べてのせてあった。彼は、それをつかむと、いそいで裏の畑に出た。そこで彼は、紐を解いて中身を覗いてみ
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