れていた。
 恭一は心配そうに母の顔を見まもった。俊三はいつもに似ずおずおずして次郎の顔ばかり見ていた。次郎はぷいと立ち上って、一人でさっさと室を出て行ってしまった。

     *

 その日は土曜で、俊亮が帰って来る日だった。お民と次郎は、めいめいに違った気持で彼の帰りを待っていた。
 次郎は薪小屋に一人ぽつねんと腰をおろして考えこんでいた。そこへ、お糸婆さんと直吉とが、代る代るやって来ては、お父さんのお帰りまでに、早く何もかも白状した方がいい、といったようなことをくどくどと説いた。もうみんなも、次郎を算盤の破壊者と決めてしまっているらしかった。
 次郎は彼らに一言も返事をしなかった。そして、父が帰って来て母から今日の話を聞いたら、きっと自分でこの小屋にやって来るに違いない。その時何と言おうか、と考えていた。
(何で俺は罪を被る気になったんだろう。)
 彼はその折の気持が、さっぱり解らはくなっていた。そして、いつもの押し強さも、皮肉な気分もすっかり抜けてしまった。彼は自分で自分を哀れっぽいもののようにすら感じた。涙がひとりでに出た。――彼がこんな弱々しい感じになったのはめずらしいこ
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