ずおず半分ばかり引きぬいて、その鏡のような刃に見入っていると、うしろに足音がした。何だか父の足音とはちがうと思って、ひょいと振り向くと、そこにはお祖母さんが立っていた。次郎はびっくりして刀をぱちんと鞘《さや》に収めた。そして、あたりに散らかっている品物を、急いで木箱に収めにかかった。彼は、お祖母さんには万事秘密だということを、はっきり言い聞かされていたわけではなかったが、何とはなしに、秘密にしなければならないような気がしていたのである。
「次郎!」
と、お祖母さんの声は、物凄い慄《ふる》えを帯びていた。
「お前は一たい、そこで何をしているのだい。」
次郎はちらりとお祖母さんの顔を見た。すると、その顔は、蛙が喉をわくわくさせている時のような顔に見えた。
彼はどうしていいのか解らなかった。で、坐ったまま、視線をあちらこちらにそらした。半ば引き出されたままの箪笥の抽斗や、蓋をあけた長持や、木箱や、金蒔絵や、青い紐などが、雑然と彼の眼に映った。彼はますますうろたえた。
「いつの間に、お前はこんなことを覚えたのだい。」
そう言って、お祖母さんは、二三歩彼に近づいて来た。次郎は押されるように、窓ぎわににじり寄った。
「次郎!」
お祖母さんのいきりたった声が、次郎の膝の関節をぴくりとさせた。もしその時、お祖母さんのうしろに、厳粛な、それでいて、どこかに笑いを含んだ父の顔が見出されなかったら、次郎は、あるいは二階の窓から、逃げ出そうと試みたかも知れない。
「次郎のいたずらじゃありません。」
俊亮は、散らかった木箱を跨《また》ぎながら、そう言って、次郎のすぐそばに、どっしりと坐りこんだ。
次郎は一先ずほっとした。しかし、父と祖母との間に何事か起りそうな気がして、何となく不安だった。
お祖母さんは、まだ胡散臭《うさんくさ》そうに、次郎の顔と、散らかった品物とを見|較《くら》べていたが、ふと思いついたように、長持のそばに寄って行って、その中を覗きこんだ。そして、しばらくは頻りに小首をかしげていたが、そのまま箪笥の方に歩いて行って、開いている抽斗は無論のこと、袋戸棚から小抽斗に至るまで、引っかきまわした。
俊亮は、その間、默然と坐って腕組みをしていた。
「俊亮や――」
お祖母さんは、べたりと俊亮の前に坐ると、下からその顔を覗きこむようにした。
「相すみません。」
俊亮
前へ
次へ
全166ページ中103ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング