た品物をもとのところに納めるのが、次郎の役目のようになってしまった。
これまで、茶棚や、戸棚や、火鉢の抽斗《ひきだし》ぐらいより覗いたことのなかった次郎は、長持や、箪笥の奥から、桐箱などに納められた珍しい品物が、いくつも出て来るのを見て、全く別の世界を見るような気がした。彼は、ともすると、暗い長持《ながもち》の底を覗きこんで、亡くなったお祖父さん、そのまたお祖父さんというふうに、遠い昔のことなど考えてみた。そして何とはなしに、家の深さというものが、次第に彼の心にしみて来た。そのために、彼はこれまでとは幾分ちがった眼で家の中のあらゆるものを見まわすようになった。
が、同時に彼は、美しい鍔《つば》をはめた刀や、蒔絵《まきえ》の箱や、金襴《きんらん》で表装《ひょうそう》した軸物などが、つぎつぎに長持の底から消えていくのを、淋しく思わないではいられなかった。俊亮は、むろん彼に何も話して聞かせなかったし、彼もまた訊ねてみようともしなかったが、風呂敷に包まれた品物が、その度ごとに、俊亮の自転車に結《ゆ》わえつけられて、人目に立たぬように何処かに持ち出されるのを、彼はよく知っていたのである。
風呂敷包が出来あがる頃には、大てい、お民が足音を忍ばせるようにして、二階に上って来た。そしてその包みの中を一応あらためてから、きまって右手を襟につっこんで、軽い吐息をもらした。
「貴方、その品だけは、もっとあとになすったら、どう?」
彼女は時おり、力のない声で、そんなことを言った。しかし、俊亮の答は、いつもきまっていた。
「晩《おそ》かれ早かれ、一度は始末するんだ。」
次郎は、そんな時には、不思議に母に味方がしてみたくなった。そして、長持に突っこんだ顔を、そっと父の方にねじ向けるのだった。
しかし、彼の視線《しせん》がまだ父の顔に届かないうちに、それを途中でさえぎるのは、母の鋭い声だった。
「次郎、もういいから、お前は階下《した》に行っといで。」
そう言われると、次郎の母に味方したいと思った感情は、一時にけし飛んだ。同時に、長持の中の品物なんかどうだっていい、という気になった。そして、あとに残るのは、父に対する親しみの感情だった。
だが、こうした秘密な売立《うりたて》も、そう永くは続かなかった。
ある日次郎は、父が小用か何かに立ったあと、一人で長持の前に坐って、長い刀を、お
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