くなるにきまっている。」
「貴方は、まあ! みんなで次郎に罪を押しつけたとでも思ってらっしゃるの。」
「口では押しつけなくても、心で押しつけたことになる。」
「では私、もう何も申上げませんわ。どうせ私には、次郎を育てる力なんかありませんから。」
「そう怒ってしまっては、話が出来ん。」
「怒りたくもなろうじゃありませんか。次郎が正直に白状したのまで、私が押しつけてさせたようにお取りですもの。」
「次郎は、しかし、すぐそれを取消したんだろう?」
「それがあれの手に負えないところなんですよ。」
「しかし、それがあれの正直なところなのかも知れない。」
「貴方、本気で言ってらっしゃるの。」
「本気さ。あれは強情な代りに、一旦白状したら、めったにそれを取消すようなことはしない子だ。それを取消したところをみると、取消しの方が本当かも知れない。」
「おやおや、貴方は、あの子を人の罪まで被るような、そんな偉い子だと思ってらっしゃるの。」
「実は、その点が俺に少し解《げ》しかねるところなんだ。」
「それご覧なさい。」
「一たいどんな機《はず》みで、白状したんだい?」
「それは、私、ワシントンの話を持ち出しましたの。」
「うむ。」
「そしたら急にそわそわし出したものですから、そこをうまく畳みかけてきいてみたんですの。」
 お民は、少しうわずった調子で、得意そうに言った。
「なるほど。……うむ。……」
 俊亮はしきりに考えているらしかった。しばらく沈默がつづいたあとで、お民が言った。
「ですから、本気で教えてやりさえすれば、いくらかは違ってくると思いますけれど……」
「そうかね。……それで、あいつまだ小屋の中にいるのかい。」
「ええ、いるだろうと思いますけれど……」
「とにかくおれが行ってみる。」
 俊亮の影法師《かけぼうし》が動いた。
 次郎は、父に後《おく》れないように、急いで薪小屋にもどって、じっと息をこらしていた。
「次郎、馬鹿な真似はよせ。」
 俊亮は小屋に這入ると、いきなり提灯を彼の前にさしつけて、そう言ったが、その声は叱っているようには思えなかった。
「算盤のこわれたのは、どうだっていい。お祖父さんには父さんからあやまっとくから。……だが、こわしたと言ったり、こわさないと言ったりするのは卑怯だぞ。」
 次郎は、父に卑怯だと思われたくなかった。卑怯だと思われないためには、やはり
前へ 次へ
全166ページ中73ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング