キべきものと云ふにあるも、古來印度の學者は、これを秘密教の義に解して居る、もし又密教にして、増益、息災、呪咀禁厭の法を含み、醫療星占の學を兼有する宗教とすれば、四吠陀中の阿闥婆吠陀は、其の呪文、其の儀軌、其の綱要、其の一切の附屬文學は、即ち、これに相當する、もし又密教にして呪文、其のものに力があり、功徳がありてこれを唱ふることによりて、拔苦與樂の力あると云ふなら、吠陀や、「プラーナ」の文學中にも、これに相當する部分は、甚だ多い、要するに、密教的思想は、人類に普遍なる要求であつて、世界孰れの邦域でも、人間の居住する所なら、孰れの時代、孰れの階級を問はず其の存在を見、又存在の理由もある次第で、たゞ、印度では、古代から、これに關する文學が、最も豊富であつて、今日も比較的多く傳はつて居るから、印度ばかりが、密教の本塲の如く見えるが、世界各國、程度の多少こそあれ、密教的思想又は形式の存在せぬ所はない、されば、印度に於ける密教の發生は、其の根本に遡りて時代を定むることが出來ぬ、吠陀の文學の成立した時代は、或は、今後判然明白になることが出來るにしても、其の文學の根本たる思想の發生は、决して、文學成立
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