徒が、何時頃よりか知りませぬが、滄海の一粟のやうに、印度人の間に昔からポツンと存在して居つた地方で、此の教徒の居つた地方から産出した織物は徳川時代に我が國にも桟留《サントメ》織と稱する布の一種です。Saint Thomas セント、トーマスと云ふ發音は英語風の發音で、西班牙語や葡萄牙語で、〔San Thome'〕 サン、トメと發音致しますから、自然斯く我が國でもこれに傚つたことと思ひます。英語ならばセント、フランシスと云ふべきだが、舊西班牙領であつたから亞米利加の太平洋沿岸の一都府をサン、フランシスコと云ふがごときものです。
此の地方は、地名から申しましても山岳がちの地方ではありますが、何分にも熱帶地方でありますから、非常に天惠厚き地方で、産物は豐饒であります。中にも栴檀、沈香、胡椒等の香料の産出は全世界に比類なく、中世印度の文學にもマラヤの栴檀と云うて讚歎いたしてあります。またマラヤ國では、ブヒラ(Bhilla)族の主婦は飯を炊くに伽羅栴檀を薪に用ふるなどの諺があります位で、其の産出の多かつたことはこれでも知れます。其の外、米、ゴム、椰子油などの産物は夥しく、古から有名でありますが
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