提督閣下、アドミラル閣下の名稱に對し、たとひ音譯とは云へ、女の「アダツポイ」ことを形容するに用ひる娜の字を使用するやうな失禮なことはなかつたかとも云へます。次は「准」の字であります。元來、此の字は準の字の俗字で、我が國でも、准后とか、批准とか、准許とか、准之とか云ふ場合に於けるごとく、「なぞらへる」「ひとしくする」「ゆるす」など云ふ意味のときは、「ジユン」と發音致します。かゝる場合には、支那では、上聲に發音します。然れど、もし鼻と云ふ意味に用ひますときは、必ず入聲に發音致しまして、「セツ」と發音せねばなりませぬ。例せば隆準龍顏《リユウセツリヤウガン》などと云つたり、隆準而《リユウセツニシテ》有[#(リ)][#二]日角《ニツカク》[#一]など云うて、支那の史官が西漢の高祖皇帝や東漢の光武皇帝の容貌を形容する場合の準は必ず入聲に讀みます。金剛智三藏が支那の洛陽で入寂してから十五年目に、孫孝哲と云ふ安禄山の武將が、長安で唐の宗室の人々を虐殺した有樣を目撃して、杜甫が漢を借りて唐を歌うた哀王孫の詩の中に、高帝子孫盡隆準[#「高帝子孫盡隆準」に白丸傍点]と云ふ句がありますが、これも準の字を入聲に
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