、名古屋の坊主もいた。北海道の百姓もいたし、伊勢の客引きもいた。職工も土方もバクチ打もいたのだ。この村の若者も北京に暮し、広東で鶏を盗み、アンコールワットを見物し、まったく村の生活のスケールをはみだして暮してきたに相違ない。女どもだってそうなんだ。名古屋の軍需会社の庭土の上へ伏せて、自分の隣の女工までは吹きとばされたりハラワタが飛び出ていたりした。同じ会社の社員と熱海へアイビキに行ってきたのもいるし、待合で芸者の代りに課長を接待し、いつも絹布のフトンにねむったわよ、という娘もいた。
 山河は昔ながらでも、若者たちは雑然と体をなさゞる何物かであるという外に、何物でもない、というのが当然に思われる。然し、村の小学校の講堂で、ともかくジャズバンドの演奏につれて芋を洗うように組つき合ってゴロゴロのたくりまわっている男女たちは、まるで土の中の野菜が夜陰に一堂に会して野合にふけっているような感じであった。
 兵隊と戦争、貞吉の見て生きてきた戦争の風景や生態も原始そのものゝ感じであったが、然し、戦争と兵隊もこれほどまでに原始的であったことはない。貞吉もサルウィン河のほとりで土民の娘にたわむれて来たが
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