で時々米をくれたり芋をくれたりしますから」
「お前は乞食か。ふん、気の毒な引揚者か。そして、村の者はオレの悪口を云うてるのだろう。オイ、オレのうちの台所へ来てみろ、米なんか一粒もないぞ。気の毒な引揚者のお前の方がゼイタクなもの食ってるのだぞ。やせても枯れても、第一、オレは乞食はやらん。キサマ先祖の顔に泥をぬるな」
「引揚げ者の無慙な立場も察して下さい。生きるためには乞食もしなければならないのです。子供が五人もいて、泣きつかれては、乞食でも何でも、米が欲しい芋が欲しい、卑屈なことでも、やる気にならざるを得ないのです」
「オレはやらんじゃないか。オレはこの三日一粒の米も食べておらん。オレの子供は芋ばかり食ってる。この村で、こんな悲惨な生活してるのはオレのところだけだぞ。それでもオレは乞食はやらん」
「兄さん、済みません。オレの米、すこしですが差上げましょうか」
「乞食した貰い米はいらん」
「いや、兄さん、マル公の値段は払っていますよ」
「そうか。そんなら、オレもマル公で買うてやる」
 正一郎は幸蔵のたった三升ほどの米を、ていねいにはかって、ちょっきりマル公だけの値段を払った。もちろん、その
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