から、オレにまかせなさい。土蔵にいっぱい祖先伝来の書画があるんだもの、それでピイピイしていちゃ、笑い者になりますぜ。戦災も蒙らないから、洋服でも着物でもあるじゃありませんか。それで米の五十俵や百俵物交することができなきゃ、不思議なようなもんだな。オレにまかして下さい。手数料に一割だけ下さい。汽車賃、宿の費用、諸がかりは私の一割の手数料からだしますから」
 然し、正一郎は不興にジロリと睨んだゞけだった。
 彼は幸蔵が土蔵一ぱいの書画を売ることや、洋服や着物を物交することに目をつけたのは油断がならぬと思った。
 何も持たない筈の幸蔵が、配給以外の芋や大根を煮ていたり、子供たちにカユをたくさん食わせていたり、何がなカラクリがなければならぬことである。彼は土蔵の中をしらべてみた。鍵もていねいに改めた。
 彼はとうとう、幸蔵の土蔵の住居を訪れて、
「オイ、お前の持ち物をちょっと見せんか」
「なぜですか」
「引揚者がどんな品々を選んで持って帰るか見たいのだ」
 彼は片隅につまれたフトンやオシメの類までシサイに一々改めて、
「ふん、相当のものを持ち帰っているじゃないか。これなら生活は間に合う。オヤ、
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