を下していたが、戦地から工場から帰ってきた若者どもは、ダンス、芝居、素人レビュー、男はポマードをぬたくり、女はパーマネントに頬ベニ口ベニ、軍国精神どころの段ではない。
もとより正一郎はそこにこだわる人物ではない。彼はもはや村一番の民主主義者となり、働かざる者は食うべからず、平等、同権、又、兄弟も他人である。人間は独立、自主、自由でなければならん。依存することは許されぬ。
衣子には、お前は東京へ行って事務員になってはどうだ。ダンサアもよい。女はパンパンをやっても食える。お前だけの美貌があれば、それが生活の資本で、どこへ行っても、独立の生計が営めるし、栄華もできるかも知れん。それが資本主義のよいところである。共産主義なら、女工になる、そっちでも食える。汽車賃は俺が出してやる。
然し、たった百円の汽車賃も今はもう出してやれなくなってしまった。
このへんでは一升四十円だせば米はいくらでも買える。正一郎には五升の米も気楽に買えない身分となり、時たま都会へ書画骨董を売りにでると、ニセモノだと難グセつけられ、捨て値同様値ぎり倒されてしまう。
幸蔵がにじりよって、
「兄さんはショーバイへたゞ
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