で引きずり下して、火タタキを持たせて玄関前へ見張りをさせ、自分も見張っている。
東京の住人でも近所にバクダンが落ちてから寝ボケマナコでゲートルをまいて逃げだすのが例であるから、山奥の空襲警報に見張りにでるのはバカであるが、意地というものは仕方がない。
気がつくと、カメがいない。
「オイ、カメ、オイ、どこにいる」
手さぐりで探しても、どこにもいない。屋根裏へかけ上ると、まさしくカメは寝床の中にいるのである。なんべん引きずり下しても、ソッと寝床へもどってしまう。
あげくに、とうとう、正一郎は自分でもワケの分らないことをやってしまった。
空襲警報が解除になった真夜中に、土蔵の裏のタキ木のつまった納屋へ火を放《つ》けてしまったのである。
火をつけて、カメをおどかしてやろうと思って、カメを叩き起すつもりで戻ってきた。然し、途中で、ほんとに火事になッちゃアいけないと気がついて、戻って見ると、もう勢いよく燃えている。
正一郎は狂気の如く屋根裏へとびあがって、物も言わず、カメをける、なぐる、足をひきずる。
「火事だ。キサマ、火事だぞ」
いくつ殴ったか知らないが、翌日手の指をまげることが
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