できなかったから、カメの方でも、顔が土左衛門みたいに腫れていた。
「キサマが寝てやがるから、火事になる。見ろ、火事だ。このヤロー」
 燃える火の前へ引きずり下されて、カメはさすがにポカンとしているのを、また打ちのめして、水をかける。のろのろすると、けとばす。けころがす。ふみつける。
 村にも消防隊というものがあった。警防団もある。おまけに巡査もいる。これが火の手を見て一とかたまりに駈けこんできて、消しとめた。
 正一郎の放火と分り、検事局まで呼びだされたが、百方手をつくして、ともかくカンベンしてもらった。
 消防隊と巡査が駈けつけたとき、彼はやたらに亢奮して、放火説にしてしまったが、あのとき、焚火の不始末だとか、ごまかす手段はあったのである。
 その翌晩、放火犯人が他にあることの証拠に、彼は深夜に忍びで、村へ放火に行くところであった。架空の放火狂をでっちあげるためである。警報のあとに限って放火する、そういう特殊な手口の狂人を創作する、彼はそれに就いて考えふけったあまり、自分の女房に向って、
「オイ、注意しろ。犯人は気違いなんだ。警報のあとに限って、火をつけてまわる、そういう奴だ。警報が
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