物心ついた時にはもうこの家に働いていた主のような薄ノロであるが、山羊の乳を飲みへらして持ってくる、※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]の卵を朝ごとに四ツ五ツのみこんで三ツ四ツ残して運んでくる、青大将のような奴で、二度と卵と乳を呑むとヒマをやるぞと言い渡してもヘラヘラ笑って、この節は炭を焼いても日に百円にはなるもんだ、オラの月給はたゞみたいの二十円で、マンマは腹に半分食せてくれんガネ、ヒマになったらいゝもんだと捨ゼリフして二三日炭焼き小屋へ手伝いなどに消えてなくなり、三日もたつと忘れた顔して下男部屋に戻っており、すでに卵を四ツ五ツ飲んでいるというグアイであった。
正一郎は都市にいるころは空襲警報にも起きたことがなかったのに、山奥へきてからは、警報がでると猛烈な勢いで屋根裏の下男部屋へ駈け上って、電燈を消す。カメの枕をけとばして、このヤローなぜ消さんか、なんべん言ったら納得するんだ、するとカメは、ねむたい時は返事もせず、枕をけとばされてもグウグウねむり、起きてる時は、
「なアにさ、オメサマ、ここへ落ちれば、いゝもんだ。山奥のコンゲナ古屋敷がミヤコの代りに灰になれば、忠義なもんだ。ウ
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