し彼はこのとき意外な失策をやった。
彼は小心臆病であった。嘘かホントか知らないけれども、敵機は夜間に燈火をめがけて投弾する、そこで空襲なぞよその話と電燈つけて高イビキの山奥へ投弾されて、たった一軒ふきとばされたり山林火事になったりする、そんな話もあるところへ、彼の村では燈火を消さずに寝ている奴バラがたくさんある。他人の家はさておき、彼の家のトメという女中とカメという下男は特別に心掛のよからぬ奴で、アカリを消したことがない。何べん言ってきかせてもダメであるばかりか、そんなオメサマ、何千里も海を渡ってとんできて、こんな山奥へ、そんなムダなこと、しませんテバ、と口ごたえする。カメもトメも薄馬鹿であるが、どこできいたか、アメリカの機械といえば日本は遠く足もとへも及ばんもんだ。日本の飛行機ハネ、夜になるとメクラになるからウラトコの山へ落すもんだ、アメリカの飛行機はソンゲナ馬鹿なこと、しませんガネ、と言う。
もとより正一郎はレーダーの威力を知っているから、この山奥へ逃げこんで、戦車に体当りの下界のモロモロの低脳どもを冷やかに見下していたのであるが、カメに虚をつかれて逆上した。
カメは正一郎が
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