で、自然にそうなるものらしい。二男三男などゝいうものは、コクツブシみたいなもの、いくらかでも分禄しなければならないだけ家産の敵みたいなもので、戦国時代と違って矢を三本合せる必要はないから、邪魔になるばかりである。
貞吉はそういうことは出征前から心得ていたから、生きて還ったところで、歓待を受ける筈はない。生きて還るとは、おはずかしい。まことにテレクサイ思いで借金の言い訳に来たようにして生家へ戻ってきたから、万事案の定という奴で、いさゝかも驚かない。追いだされるまで居る気なのだ。それだけのことだ。
けれども伏兵がひとりいた。これは二番目の兄で幸蔵というのだが、満洲から妻子六人ひきつれて、ころがりこんだ。無一物、家どころか、フトンもない。引揚げて生家へころがりこむのは自然であるが、正一郎の考えでは自然ではない。かりにも分家分禄したのだから、生家というものは、もはや特別の何物でもない。分家というものは死んでも生家の墓へは入れぬ。つまり独立した別の一家であるからで、分家には分家の墓を起さなければならないように、わが住む家を失ったから、生家へもどるという性質のものではない。
おまけに妻子六名
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