ックウの一語につきる。そして、ふと気がつくと、
「あの化け者めにオレの寝首をとられるか」
そう考えているのであった。久方の光がしず心なく降るが如くに、そう考えているのであった。
★
その年の秋、三男の喜平次を一色右兵衛大輔とした。これにいずれは後をゆずる腹であった。道三は下の子ほど可愛いのだ。
「喜平次はオレも及ばぬ利口者」
こう云って崇敬したが、誰もその気になってはくれなかった。しかし道三は大いに喜平次を崇敬して満足であった。
そして、十一月二十二日、例年通り山下の館で冬を越すために城を降りた。
義龍は十月十三日から病気が重くなって、臥せっていた。道三が冬ごもりから戻るころには大方死んでいるだろうという話であった。道三もそれを疑わなかった。要するに、そんなものか、と城を降りたのである。
しかるに義龍の病気は仮病であった。道三が山下へ降りたので、道三の兄に当る長井|隼人正《はやとのしょう》が義龍の使者となり、喜平次と孫四郎を迎えにきた。
「義龍が死期がきて、いまわに言いのこすことがあるそうだから」
伯父が使者だから二人も疑わない。そして兄の病室へは
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