いったところを、待ちぶせた人々に斬り殺されてしまったのである。
この報をきくと、道三はただちに手兵をまとめて美濃の山中へ逃げこんだ。翌年四月まで山ごもりして、四月十八日、六尺五寸の悪霊と決戦のために山中をでて鶴山《つるやま》に陣をはったのである。
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道三が義龍に城をとられて山中へ逃げこんだから、それまで鳴りをしずめていた信長の敵は色めきはじめた。織田伊勢守のように、たちまち義龍と組んで信長の城下を焼き払う者もあり、やがて一時に味方の中から敵がむらがり立つ形勢が近づいていた。
四月十八日に道三が出陣と分ったが、もし信長が道三の援軍にでかけると、その留守に彼もまた城をまきあげられる怖れがあった。誰がまきあげるか分らないが、親類も重臣も、いつ背いてもフシギのないのがズラリとそろっているのであった。
しかし、道三を助けたい。勝敗はともかくとして、この援軍に出ることをしないようでは、織田信長という存在は無にひとしいと彼は思った。
しかし、その留守に城をまきあげられるようでは、道三を苦笑させるだけの話であろう。二十三歳の信長は全身の総血をしぼってこの難局と格闘し
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