、一応長井に同意の様子を見せた次第です。日夜告白の機をうかがい、ひとり悩んでおりました」
 妙椿は庄五郎の忠誠をよろこんだ。
「お前長井を討ちとることができるか」
「お易い御用です。心ならずも長井に一味の様子を見せたお詫びまでに、長井の首をとって赤誠のアカシをたてましょう」
 簡単に長井をだまし討ちにした。そして自ら長井の姓をとり、長井新九郎と改名して、家老の家柄になりきってしまった。彼が長井氏の正しい宗家たることを認めない一族に対しては、長井宗家の名に於て遠慮なく断罪した。
「長井の血に於て異端を断つ」
 それが罪状の宣告である。正義とは力なのだ。
 妙椿は長井新九郎のやり方が面白いようにも思ったが、なんとなく大人げないようにも思った。
「長井にこだわりすぎやしないか。お前はお前であった方が、なおよいと思うが」
「お前と仰有いますが、長井新九郎のほかの者はおりません。拙者は長井新九郎」
「なるほど」
 坊主あがりの妙椿は、新九郎が禅機を説いているのだなと思った。痴人なお汲むナントカの水という禅話がある。痴人にされては、かなわない。
「拙者は長井新九郎」
 新九郎は腹の底からゆすりあげ
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