センしてくれた。主人を押しのけて所領を奪うほどの妙椿には、内外の敵と戦う用意が必要で、たのみになる側近が何より欲しいところだ。
 見るからに鋭敏そうな才子。しかし絵の中からぬけでたような好男子で、いわゆる白皙の容貌。詩人哲人然たる清潔さが漂っている。学識は南陽房の兄貴分だという。妙椿は一目見て惚れこんだ。そして、たちまち重用するに至ったのである。
 長井は家柄のせいで反妙椿派の頭目と仰がれているが、とうてい妙椿に対抗しうる器量ではなく、彼が陰謀を画策して味方を集めしきりに実行をあせっていることは、味方の者にも次第に危ぶまれるようになりつつあった。
 彼らは長井に一味したことを後悔しはじめていた。彼のためにやがて彼らも破滅にみちびかれることを怖れるようになっていたのだ。妙椿の勢力は時とともに堅くなりつつある。彼らは長井にたよるよりも、今さら長井を重荷に感じはじめていたのである。その重荷から無事に解放してくれる者は救世主にすら見えるかも知れない内情だった。
 庄五郎は妙椿の信用がもはやゆるぎないことを見たので、いかにも神妙に長井の陰謀を告白した。
「この約束をしなければ仕官ができませんので
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