るように高笑いした。
 法蓮坊の屈辱をいま返しているのかも知れなかった。売僧《まいす》をも無双の名僧智識に仕立てることができたであろう長井の門地はいま彼自身である。
 妙椿は新九郎がたぶん禅機を還俗させたようなシャレを行っているのだろうと思っていた。そして、彼の本心を知ったならば、身の毛のよだつ思いがしたかも知れない。なぜなら、新九郎は自分の血管を流れはじめた長井の血を本当に見つめていたからである。彼を支えているものは、その新しい血でもあった。
 妙椿は自分の無能に復讐される時がきた。新九郎が毒を一服もったのである。妙椿はわけの分らぬ重病人になった。そして死んだ。
 妙椿の家族はお家騒動を起しはじめた。すると新九郎は死せる妙椿の名に於て彼らを誅伐し、その所領をそっくり受けついでしまったのである。ついでに、斎藤の家と、その血をも貰った。彼は再び改名して、斎藤山城守利政となった。後に剃髪して、斎藤山城入道|道三《ドーサン》と称した。
 新しい血がまた彼の血管を流れている。道三はそれを本当に見つめているのだ。古い血はもはやなかった。道三はそれを確認しなければならないのだ。
 美濃一国はまった
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