を扱ふとすれば文学は人間を扱ふ。そして政治、つまりは現実と常識に対する反骨が文学の精神であり、咢堂の精神は概ねかくの如きものであつたと僕は思ふ。
 彼は大臣にもなつたけれども実務家として無能であつて、彼の政治行動は一貫した反骨精神の中に存してゐた。そしてこの反骨と理想と理論は、議会の議席の中にあつて始めて意義を生ずるかといへば、必ずしもさうではない。筆陣を張つても不可はない性質のもので、必ずしも議席を占める意味のない性質のものであつた。なるほど政党に所属してゐたこともあるが、多くは中立であり、中立などといふものは議会政治の邪魔物にすぎない。なぜなら、議会政治は現実に即した漸進的なものであつて、直接民衆の福利に即し実務的な効果を以て本質とする。漸進的な段階を飛びこした革命的な政治理論は議会とは別のところに存在する。蓋し直接民衆の福利に即した政治家は地味であり、大風呂敷の咢堂はさういふ辛抱もできないばかりか、その実際の才能もなかつた。いはば彼の役割は筆陣だけで充分だつたに拘らず、代議士だの大臣などになり、大臣などでは無能でしかなかつたにも拘らず、さういふことが忘れられて、政治の神様などと言
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