へ歩いてきた。いゝよ、わたしがするよ、とおたきは言つた。
 おたきは女中に子供を連れて立ち去らせた。それから残つた松江には医者を呼んでくるやうに言ひ、自分は屍体をおろすつもりか、屍体のうしろへ蝉のやうにくつついた。
 老婆のつめたい落ちつきは今日にはじまつたことではないが、脂のやうにねばりつく無表情の気配の中にもなにか解せない感じがしたので、松江は暫く立ち去りかね、やがてヒョイとおたきの方をふりむいたら、おたきは屍体の腰のあたりを両手でおさへ、首を帯からはづすために上へ持ちあげてゐるどころか、×××××××つけてゐた。あつけにとられてボンヤリした松江の顔と、おたきの顔がぶつかりあつた。おたきの顔は例の通りの脂のやうにねばりつく無表情で、なんの感情があるとも見えず、×××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××。

 野辺の送りもすんでから、松江は改めて遠山に会ひ、日のたつにつれ益々まざまざ眼先にちらつく悪鬼の相に怯えながら、首つくくりの××××××老婆の話を物語つた。
 遠山もこの話にはちよつと呆れたやうだつた。然し彼は暫
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