なひどくけだるい快感を与へた。この醜怪な、驕慢な孔雀の羽を頭につけた鶏のやうな女王であつた。その鶏をあぶり肉にしたやうな食慾をそそる肉感だつた。様子の違つた驕慢のために、はじめて花をひらいたやうな肉体であり、その花を無残にむしり、踏みちぎるのがこよない愉悦を彼に予約してくれる。舌なめずりといふ言葉が、この宴席をまつ心にいちばん美しく当てはまる。自分がタツノを引取つたことも、他意ない純情で応じたことも、すべて自ら心付かざるカラクリであつて、驕慢の花を咲かせるために計算された微妙な過程であつたやうな、ひどくいい気な思ひさへした。

 安川の疲れた頭に驕慢の花がこびりつき、彼は夜がねむれなかつた。けはしかつた表情が急にだらけて、ふやけたやうに纏まりがなく、厚顔無恥のあくどさや八十親爺の猥褻がありあり刻まれてゐないかと、彼は顔を見られることがひどく気懸りになりだした。
 ある日盛りのことであつた。安川が二階の書斎へ本をとりに入らうとすると、タツノがそこに昼寝してゐた。×××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××。
 安川は人一倍小心で臆病者の自分の本性を知つてゐたが、地震だ猛犬だ喧嘩だといふ咄嗟になると胸は早鐘をついてゐても反射的に居据わる度胸がついたりした。案外人にあいつは図太い神経があると言はれたりして内心いささか照れざるをえぬ破目になつたが、さういふ誤魔化しのどうにも利かない場合があつて、××××××××××といふやうなものがそれの最も本能的に甚しい場合であつた。多少とも××××××やうな対象には思はずヒョイと眼をそむける。ゐたたまらない気持がして彼は逃げだすことがあつた。それは安川の清潔さと凡そゆかりのないことで、さういふ羞恥が強いだけ助平根性も激しいわけだと彼は誰への気兼ねでもなく、自覚せざるをえないのだつた。
 タツノの××××姿をみると、安川は咄嗟に首をねぢむけた。反射的に身体が逆をふりむかざるを得なかつた。安川はひどくあわてて階段を駈け降り、逃げる気持がとまらなくて、階下の部屋を次から次へぐるぐる一巡したあげく、台所では急に水を意識して、喉のかわきと全く縁のない水のひどいまづさを噛みしめながら、グイと一息のんだりした。
 そこ
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