です。大勢来ていただいてもおもてなしも出来ませんし、陽気に騒ぐでもなく、語りながらブラ/\一緒に海岸を歩いて下さる方が欲しいんですわ。伊豆の西海岸は余り知られてゐませんけど、湘南の海岸に比べたら、もつと本格的な堂々とした風景ですわ。額縁の中の絵のやうに調《とと》のひすぎたきらひはありますけど」
私は衆人看視の中で、なんの言葉をかざるでもなくいきなり真向から右様の招待を受けたものだが、だいたい私はこの日までこの人と個人的な対談をしたことすらなかつた。呆気にとられたのは私一人のことではなく、並ゐる婦人の表情には一様に侮蔑をふくんだ驚愕がおし流されたほどであつた。然し木曾野は人々の驚愕や侮蔑が想像すらできないやうに無関心だつた。
「江の浦から水津《みと》のあたり折があつたら散歩したいと思ふんですけど、歩いたことすらないんですの、一緒に来ていただけたら、あたし歩きますわ、一晩でも。砂浜がありませんの。それが生憎ですけど、海岸から手にとるやうな近いところで大謀網《だいぼうあみ》をしめてたりしてましてよ」
相変らずザックバランに淡々と言ひまくるこの人の顔付には陰がなかつた。驚愕や侮辱の情が戸惑
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