息ホッとつくかも知れぬ。私達ははじめて兄妹になつたのだぜ、と。しみじみと始めて話を交さうぢやないか、と。
私は心にそんなことを呟いてゐた。とはいへそれも感傷的な、自暴自棄な、要するに若干の悲愴を気取る甘さのせいに他ならないと言はれても、私はたしかに一応は返す言葉がなかつたのである。
それにつけてもその宵は私達の遺伝因子が上野駅へ着く筈であつた。因子上京の報ひとたび伝はるや、因子自ら雄姿の片鱗だに現はさぬうち生殖細胞の混乱たるや件《くだん》の如し。私は然し冷酷なまで冷静だつた。
その三 少女予言者を訪れて
五月十一日――と、改めて言ひだすまでのことはなく、これは前章と同じ日で、即ち妹の失踪の翌日、私が長平に呼び起されて妹の不可解な行動を確かめるために彼の下宿へ赴いたその当日、この夜は父が上京の筈であつた。
妹の行動が私に大きな衝撃を与へたといふ言ひ方は全然当らないが、然し一人にもなりかねた私は、恐らく同じ思ひの長平と油の乗らない沈黙がちな対坐にすつかりくたびれてしまひながらも、思ひ切つて立ち上る勇気がなかつた。正午近い時刻になつて昼食のために肩を並べて外出した二人が一旦
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