ず、私一人の肚の中では、かうは言ひながら寧ろ女の異常神経では厭な奴の顔を見るのが身の毛のよだつ思ひがする、さういふ場合もありうるだらうと考へてみたりしたのであつた。
 妹は宣言通りその夜いづれへか出掛けてしまつた。
 翌朝七時前のことであつた。赤城長平が寝不足な顔付をしてやつてきた。私を叩き起してから、この鈍重な、動作の至つて緩慢な男は暫く私をぼんやり凝視めてゐるばかりであつたが、
「君の妹がゆふべ僕の部屋へ泊つたのだよ」
 と、彼は細い幽かな声でぶつ/\呟いた。私はびつくり顔をあげたが、長平はふだん通りの悄然たる泣顔の一種で、ぼんやりと私を凝視めてゐた。
「それをわざ/\知らせに来てくれたのか」
「さうぢやないよ」と、再び幽かに呟いた。
「僕は一晩ねむらないのだ。あの人はかなり熟睡してゐたよ。今朝目覚めると突然僕に命じるのだ。あの人が僕のところへ泊つたことを君に知らせて欲しいといふのだ。迎へに来てくれと言ふのですかと尋ねると、さうぢやない、ただ知らせるだけで充分だといふ、会ひたくはないと言ふのだ。明日からの行動はもう一々知らせることはしないし、どこへ行くか分らない、然し今日もわざ/\
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