ものの女給か? 別に心やすい友達もないやうぢやないか」
「友達のうち。それだけは言つとく。言ひたくないのよ、それだけは。だから黙つて出かけやうと思つたの。私だつて大人なんだから自由にさせてよ。言ひたくないことだつて、案外ごくつまらない理由かも知れないけど、さういふことがあつたつていいぢやないの」
「誰も自由を妨げてゐないよ。無理に訊かうとも考へてゐない。俺はただ大袈裟な騒ぎがきらひだよ。疲れる、退屈だ。家出するほど大袈裟な事情なんてありやしない。お前のどこかに甘やかされ増長した計算があるのだ。考へただけでも胸糞がわるい。お前が自分すら偽り通してゐるならとにかく、さうでなかつたら他に言ひ方も、何か方法も有りさうぢやないか」
「親父の顔さへ見なければ憎くまずにゐられるもの。憎くがるのは相手が誰に限らずいやだ」
「そんなことはいい加減な嘘つぱちだ。誰だつて一思ひに家ぐらゐ飛びだしてみたいや。親父の顔に関係のあることぢやないよ」
この言葉は即興的な、かなりお座なりなものだつた。続いて起つた出来事に対して決して何等の洞察も含んではゐなかつた。第一私は人の身をそれほど真剣に考へてゐない。のみなら
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