物音も動きもない暗い海に変るばかりのやうだつた。私はかたまりついた冷めたい笑ひをしやうことなしに口べりに浮かべ、二千円の札束をつかみだした。
「ずいぶん長い苦しみをさせたね。これで償ひはできないが、何かの役に立ててくれ」
私の声も泥沼の音のやうに虚しかつたにちがひない。札束をみつめた三千代の顔色は蒼ざめた。三千代は怖々と私の眼に視線をうつすと、突然サッと顫えあがり、おし隠すやうに札束の上を私の手諸共鷲掴みにした。
「これであたしと別れる気なの!」
三千代は絶望の叫びをあげた。
「いやだ! いやだ! うそだとおつしやい! あたしが貴君にお金が欲しいといつ言つて! この生活が苦しいなんて、訴へたことがあると思つて! 卑怯だわ! あたしがいやになつたのなら、たつた一言さう言つてよ! あたし、それが貴君のためなら諦らめるわ! でも、いやだ! そんなみぢめなことが、あたしの死ぬまでありませんやうに! 神様! だましてゐてよ! そつと向ふへ行つちまつてよ! あたしいつまでも斯うして貴君を待つてゐるわ! こんな金! あたしが欲しがると思ふなんて!」
三千代はいきなり札束をとると、絶望の放心にと
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