! 答へてくれなくつても、いいのよ! 来てさへくだされば満足なの。アハヽヽヽヽヽ。あたし嬉しくて堪らないわ! 喜んぢや悪い? あたしアトリヱの所までソッと行つてみやうかと思つたわ。でも、叱られると怖いから、止したの。今日は怒つてゐないわね? ねえ、さうでせう? ほんとに今日は怒つてなんかゐないわね?」
私は笑ひながら頷いてみせた。そして坐つた。
「どうしたの? 弥生さんは?」
私は再び春子に向つてそれを訊いた。春子は今にも泣きだしさうな困惑をうかべながら三千代をみつめて、「言つてもいいかしら?……」と、助力をもとめるかのやうに呟いた。
三千代は漸く自分の言ひたいこと以外の話題に気付いた様子であつた。
「この子、喀血したの、でも、たいしたことはないのよ」
三千代は強ひてなんでもないやうに言はうとした。私に重荷をかけないことが、この女のたつた一つの希ひのやうに。それから急に活気づいて、
「弥生ちやん、早く治りませう! さうして楽しい旅に連れていつて貰ひませう! 温泉! 海! 南洋! さうだ! こんど南洋へ連れてつて下さいね!」
三千代は生き生きと叫びはじめた。私の心はたそがれて、
前へ
次へ
全125ページ中52ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング