あらはに顔を顰め最も分りきつたことを答へた。
「堕胎したら、今度こそあの男にやられるでせう」
 言ひ終ると私の頭は空《から》になつた。私は自分を立て直すために秋子の視線をしつかりと見返したが、やがて秋子は視線の中にどうにもならない微笑を浮べ、そして弱々しくお辞儀をしかけた。
「では失礼しますわ……」
「さよなら」
 私はふらぶら振向いた。いきなり自動車を呼びとめて乗り込んだ。
「大森へやつてくれ!」と無意識に叫んでゐた。
 私は車の中で空想した。明日秋子から手紙がくる。文面には次のやうに書いてある。「今のうち貴君と絶交のできたのは幸福でした。貴君には、大悪党といふ言葉が、ただ一つ当てはまります」――こんなに急所をつかれ、同時に恥辱を感じることがあらうか! 私の頭は破れさうに思はれた。
 自動車は大森も工場地帯の五味つぽい草原の横でギイと止まつた。私は自動車を飛び降りてから、自分で命じてきたくせに、何のためにこんな所へきたのだらうと一時ぼんやりしたほどだつた。然し私は別に躊躇もしなかつた。一軒の見るからに品格のないアパートへ私はまつすぐ這入つていつた。ここにも私の一人の女が住んでゐるのだ
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