ひださせたのであつた。想念は急激な速度で舞ひ戻り、めまぐるしく廻転しはじめてゐた。私はさきにこの唐突の想念が已に私の牢固たる決意と化したもののやうに述べておいた。一応はさうであつたに違ひない。然しそれが実際の行為をうながす動力となるには、このうらぶれた道々のある偶然の一瞬間が必要であつた。私は突然立ちどまつた。
「僕はここで失礼します」と私は言つた。
「今日のことは忘れて下さい。然しこれで、あの男に関したことは全部終つたと思ひます。僕の手際は愚劣でしたが、あんな芝居をするほかに、名案もなかつたのです」
「あたしは子供を生まなければならないでせうか?」
 アッと思ふ隙もなかつた――と、私はそんな風に感じたのだ。まるで眉間を打ち割られたやうに。秋子はヂッと私を凝視めて斯うハッキリと言ひ切つたのだ。
 私の偽善者めいた甘い気取りは木ッ葉微塵に踏みくだかれたやうだつた。私は混乱し、のぼせた。全く私はあの豪傑を自分や叔父との関係にばかり眺めてゐて、こんなに分りきつた、哀れな女の恐ろしい問題を念頭にかけたこともなかつたのだ! 私は忽ち冷汗すら流した。私は分裂した思考力を集中しやうと努めながら、然し
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