。
女の名は三千代といつた。数ヶ月前までは、ある盛り場の小さな然し客の立てこむ酒場のマダムであつたのだが、私との三年越しの関係が到頭主人に気付かれて、裸で店を追はれたのだ。弥生とよぶ十七才の異母妹を連れてゐた。三千代はたとひ彼女等の米に事欠くことがあつても(そしてそれが実際に訪れてゐたが――)その悲しみを決して私に訴へなかつた。私に叱られることだけが彼女の唯一の悲しさだつた。もしも私が死ねといつたら、そしてその心がまぎれもない私の本音と分つたら、恐らく「私を喜ばすために」彼女は自殺するだらう! 私は三千代に冷酷であつた。
私が彼女の室へはいると、三千代は瞬時疑はしげに後へさがつたほどであつた。彼女は私の胸の前まで一飛びに走つてきて、然し私にとびつくだけの勇気がなく、顫えながら身を竦めた。
「よく来てくれたわね! 四十日ぶりだわ! 忘れなかつたのね! もう忘れたと思つてゐたわ! 時々泣いてゐたけど、恨んでなんかゐなかつたわ! 恨んだことなんか、一度だつてありやしないわ! ねえ、弥生ちやん! さうだつたわね!」
そして三千代は竦みながら私を凝視め、がつかりしたやうに笑ひだした。
私
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