つてゐるぢやないか。会ふ必要がなかつたのなら早く帰れ」
豪傑は私を蔑みながらひどく肉体を感じさせる強い声でその時突然私に命じた。始めて私を睨みつけたが、それは本格的な悪党の眼付であつた。私は冷静に返つてきた。
「帰るのはいいが、俺の日当を置いてけ、青二才のくせに、今後でしやばつたことをするな。世間で通るやうには通らない世界のあることを覚えておけ。お前なぞがなめやうたつてなめられないのだ。それから、お前の来るのを待つあひだここで食べた料理が十円足らずだが、払つて行け」
これは立派な事務家だと私は咄嗟に素早く思つた。私は豪傑を見違えてゐたのだ。私は彼を実は隠された稚気を秘めた男だと思つてゐた。話によつては一緒に酒をのんで笑つて別れることも有りうると考へてゐたのだ。生憎豪傑はそんな詩人ではなかつたやうだ。彼は完全な事務家であつた。私の稚気に通じる甘さは何もない。私は自分の見立て違ひに気がつくと同時に完全な敗北を感じた。
――つまり五千円をゆすれるやうな派手な詩人ではなかつたのさ。あの大仕事はこの豪傑には場違ひだ。その代り一日の日当と料理代はこの男に打つてつけの商売なのだ。微塵も場違ひの
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