くものを聞き逃すわけにもいかなかつた。
秋子の顔には何の動きも表れなかつた。然し私の方を見た。
「ええ、一緒にここを出ませう」
と、秋子は私に言つた。
「こんな話のために貴方がここへ来る必要はなかつたのです。人をゆする権利なんて、始めからこの人にはない筈です」
「君……」
と、私は豪傑に向つて言ひかけながら、変な風にあはてふためき、私の舌まで、もつれたやうに、わななきうはずつてゐた。
「どうも僕は妙なことをしたやうだ。君に会ふ必要はなかつたやうな気がするのです。会はない方がよつぽどましのやうに見えるが……」
私は一時ぼんやりした。豪傑は我関せずの顔付で、煙草をさかんにふかしながら、全く無言でゐるのであつた。私は急に我にかへると、激越な憎しみが豪傑に向けてむらむらと沸き立つてきた。耳鳴りがして動悸が高鳴り、私の手はヂャックナイフを握りしめたい衝動のためにぶるぶる顫えるやうに思はれた。喋つたら刺す、私は冷めたくさう思つた。勿論それが私の心の全ての真実ではないのである。けれども私は刺したい殺気を抑へるために、めまひのする混乱を覚えてゐた。
「俺に会ひたかつた意味は、さつきの話で筋が通
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