があつたらこの場で言つて下さい。万事この場で済ましたいのです。子供は僕が育てます。そのことにも何か要求はありませんか? むしろ……」
私はふと軽い陽気にかられながら口をすべらした。
「養育費をもらいたいくらゐのものです」
私は自然に苦笑した。
私は然し、斯んな話が秋子にはどんな激しい侮辱であるかにふと気がついた。まるで私はその侮辱をきかせるために秋子をわざわざここへ連れ出してきたのではないかと思ひついたりしたのであつた。まさかに然《そ》うとも思へない。然し心の一部分で、私は全く混乱した。けれども私は言葉をつづけた。
「この人に関する限り、もはや貴君に何の権利もないものと思つて下さい。先日の一件のやうなことも、もはや理由の成り立たないことを認めていただかねばなりません。それに対して不平があつたら、それもこの場でききたいものです」
私は急にいやになつた。頭がくらくらしてきたのだ。
「貴女はもう帰つて下さい! どうにも、これはとんでもないことをしたやうだ……」
私は弾かれたやうに秋子の方を振向いて、叫んだ。勢一杯の感じであつた。とたんに心の一ヶ所で、畜生! 芝居をしてゐるな! と呟
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