か附け加へて言ふ必要にかられた思ひで言ひかけたが、私の脳裡は恰も中断されたやうに空虚であつて、もとより附け加へて言ふべき言葉があらう筈はなかつたのだ。然し私は言はねばならない気持であつた。この婦人に向つて何事であれ告白したい親しさに駆られたものであつたらうか? 然りとすれば私の無意識の肚裡に於て已に一つの姦淫を挑みかけてゐたことを認めぬわけにもいかぬであらうが、左様な意志を私は意識もしなかつたし、無意識のうちにそれらしい表情や態度をつくることもなかつた。私は火によつて背中から追はれるやうに口走りはじめてゐた。
「妹が昨夜家出したのです。妹の嫌つてゐる父親が今晩上京するからといふ口実ですが、むろん誰だつて一思ひに知らないところへ逃げて行きたいにきまつてますよ。今アトリヱへ僕と一緒に這入つてきた男があるでせう。赤城長平といふちよつと知られた懐疑的な新進作家なんですが、妹の奴昨夜はあの人の住居へ現れたといふのです。長平の報告によると、その一夜の妹の態度が、彼の始めて接した本格的な妖婦そのものであつたといふのですね。僕には長平の観察が決して狂つてゐないことを認めることができるのです。勿論妹がよ
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