といふ、もとより五郎兵衛に凡ならざる取柄があつてのことでせうが、この娘も変り者です。親の師匠も承知で、それに就ては正式に結婚してくれろ、といふ、五郎兵衛もその肚ですが、お玉が頑張つてゐますから、根岸の里に然るべき住居を定めて新婚生活を始めましたが、之をお玉が嗅ぎつけたから、刃物三昧です。根岸の里にも居られぬ、親元も危い、そこで新夫人はあの旅館この待合と居所を変へてお玉の襲撃をかはしますが、之につれて五郎兵衛の居所も定かでない。之が五郎兵衛一世一代の大事に於ける行状です。
五郎兵衛の醜態、不手際にも罪はあつたが、元々内閣の成立に無理があつた。そのうへ内務省と司法省とで管轄上のことから暗闘があつて反内閣的火の手が司法官内部に起つたから、この問題が刑法上の事件になつた、そこで五郎兵衛は政界を失脚しましたが、このとき五郎兵衛は腹を切つた。家人が気付いて早々医師の手を加へたから危い命をくひとめましたが、大時代の出来事で、男を上げたのやら下げたのやら、とにかく賑かな騒ぎでした。五郎兵衛が一切の責任を負ひ累の四方に及ぶを避けるために腹を切つたといふ、事実検事の追及も有耶無耶に結局事件は不起訴に終り
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