はんですよ。
 そこまではまだ良かつた。すこし離れたところに折葉さんが父の日記を執りあげて読んでゐました。そこで太郎丸氏の着想は急角度に転進して、氏自ら忽然古代史の奥底に没入し去つてしまつた。
 私は生きてゐるのが面倒くさくなるのですよ。死んでから、人間がどうなるか、あなたは知つてゐますか、私は知らんです。妹(折葉さんのこと)にきゝましたら、多分眠つてゐるときと同じだらうと言ふのですが、私は眠ることもあんまり好きではないです。私は熟睡できないです。その代り、一日に十六時間ぐらゐ寝床にゐます。本を読んだり寝たふりをしてゐます。私は死なうと思つたことがありました。そのとき妹に相談して一緒に死なうと思つたです。けれども、妹に相談すれば、妹は必ず一緒に死ぬと答へるですから、私は慌たゞしいことになるでせう。多分私は妹にひかれて妹のあとからフラ/\と死ぬやうな立場になるですから、みじめだと思つたです。さう思ひながら妹の顔を見ましたが、眼は見ませんでしたが、鼻と唇を見たです。なぜなら、そのとき妹は横を向いてゐたからでした。妹の鼻の形は美しいですから。けれども整つた美しさですから、唇のみづ/\しさ妖し
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