て堅く容喙をつゝしむことが家憲の如くでありました。
その翌日のことです。加茂五郎兵衛の手沢品や日記などを一まとめに投げ入れてあるといふ蔵の中へ案内されたのですが、太郎丸氏はたつた一冊か二冊づゝ資料をとりだしてきて若干の解説を加へて私に渡して又とりだしに消え去る。そのうちに私の前に立膝をして、唐突に天外の奇想を喋りはじめました。
あの人(といふのは自分の奥さんのことです)は只の人ではありませんよ。古代の人です。日本がまだ神代のころ九州に卑弥呼といふ女の王様がゐたさうですが、あの人もさういふ人です。腕力は弱いですけど、計略が巧みですから王様になるです。あの人は村長もできるですよ。村の気風やしきたりは変るですけど、あの人の方法で村は円くをさまるです。百姓は畑をつくるよりオベッカを言ふです。日雇人夫は仕事をなまけて仏壇の前でお線香をあげたまゝ昼寝するです。そのくせ百姓が税金を納めなければ、あの人は軍隊をさしむけるです。けれども利巧な百姓は税金の半分のお金であの人に賄賂を送るです。それで村の税金は納まらぬですけど、あの人はお金持になるです。あの人は自分のお金で兵隊を養ふですから、誰も文句は言
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