を見物しました。千年の昔からつづき、そして之から何千年つづくか知れませんが、私は然し心を動かされませんでした。あれは無限ではないです。夢殿の観音も見ましたが、私はグロテスクだと思っただけです。私は妹の唇を見ているうちに心をうたれて、無限だと思ったのです。私は妹と一緒に死ぬのはいけないことだと思いました。私は泣いたです。一日中、寝たふりをして泣いていたです。泣くわけが分らなかったですが、涙が流れていつまでも涸れないので奇妙でした。一日一晩泣きあかしたです。そして死ぬのをやめました。けれども、その後も、今も、生きているのが面倒です。私は今でも時々妹の唇をぬすみ見しますが、見るたびに、段々と別のことを思うようになったです。もはや無限ではないのです。私には手のとどかない秘密があるのだと思ったです。妹は美しすぎます。私は妹を見ていると、十里四方もつづく満開の桜の森林があって、そのまんなかに私だけたった一人置きすてられてしまったような寂しさを感じます。私は花びらに埋もれ、花びらを吹く風に追われて、困りながら歩いているのです。
私は若干の勇気をもって折葉さんの方をぬすみ見ずにはいられなかった。そう
前へ
次へ
全16ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング