るという蔵の中へ案内されたのですが、太郎丸氏はたった一冊か二冊ずつ資料をとりだしてきて若干の解説を加えて私に渡して又とりだしに消え去る。そのうちに私の前に立膝をして、唐突に天外の奇想を喋りはじめました。
あの人(というのは自分の奥さんのことです)は只の人ではありませんよ。古代の人です。日本がまだ神代のころ九州に卑弥呼という女の王様がいたそうですが、あの人もそういう人です。腕力は弱いですけど、計略が巧みですから王様になるです。あの人は村長もできるですよ。村の気風やしきたりは変るですけど、あの人の方法で村は円くおさまるです。百姓は畑をつくるよりオベッカを言うです。日雇人夫は仕事をなまけて仏壇の前でお線香をあげたまま昼寝するです。そのくせ百姓が税金を納めなければ、あの人は軍隊をさしむけるです。けれども利巧な百姓は税金の半分のお金であの人に賄賂を送るです。それで村の税金は納まらぬですけど、あの人はお金持になるです。あの人は自分のお金で兵隊を養うですから、誰も文句は言わんですよ。
そこまではまだ良かった。すこし離れたところに折葉さんが父の日記を執りあげて読んでいました。そこで太郎丸氏の着想は
前へ
次へ
全16ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング