の激しい意気組を嘲けるやうに、傲岸な眼は無造作に反らされてゐた。その後、同じ眼に数回出会つた。眼は思ひがけない街の一角から、彼女の横顔を射すくめるやうに睨むのであつた。
或日のこと、海から帰るさに、令嬢は道でない砂丘へ登つた。一面に松とポプラの繁茂した林であつたが、その木暗い片隅に三脚を据えで、画布に向つてゐる傲岸な眼を発見した。傲岸な眼は六尺に近い大男であつたのに、破れた小倉のズボンや、汚い学帽によつて、まだ中学生の若さであることが分つた。
その日、令嬢は二人の女中に付添はれてゐた。令嬢は一寸女中達のことも考へてみたが、振向いたりせずに、まつすぐ傲岸な眼の正面へ進んできて立ち止まつた。
「貴方はなぜあたしを憎々しげに睨むのですか?……」
令嬢ははつきりした声で言つた。
少年は幽かに吃驚した色を表はしたが、うつろな眼を画布に向けて、返答をせずに、顔を赭《あか》らめた。そして次第に俯向いてしまつた。
「あたしが生息気だと仰有《おっしゃ》るのですか。それとも、県知事の娘は憎らしいのですか」
併《しか》し少年は大きな身体を不器用に丸めて、俯向いたまま、むつと口を噤んでゐた。暫くして
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