こぼれてしまふ。そして我々はさういふ動物性を秩序の網にすくひあげることができないので悪徳であるといふのであるが、然しその社会生活の幅、文化といふものが発展進歩してきたものは秩序によるよりもその悪徳のせゐによることが多いのである。
日本軍部がヨーロッパ文明をさして堕落と称したのも、いはれのないことではない。もし人間が人間の社会性に主点を置き、秩序によつて人間を完全に縛りつけようとするなら、それはいはゆる武士道の如きものとなり、人の個性は失はれ、個性に代るに制服、たとへば武士といふ一つの型の制服の中の、いはゞ人間以外の生物になつてしまふ。女は小笠原流といふ礼儀の中の武士の娘であり妻であつて、女でも人間でもないのである。そして人間の欲望は禁じられ、困苦欠乏に耐へることが美徳となり、自我にでなしに、他に対する忠誠が強要せられる。これは蟻の生活だ。蓋し戦時中ある軍人は蟻の生活を模範としその如く働けと言つた。
もし人間が自我に就て考へるなら、自我の欲望と社会の規約束縛の摩擦や矛盾に就て、考へるといふ生活が先づ第一にそこから始まるのは自然ではないか。日本人とても例外ではない。全ての人々が考へるの
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