いてゐた。薄情冷酷、そして、先天的な「犯罪者」だと云ふのである。
谷村には無貞操といふことよりも、犯罪者といふ言葉の方がぬきさしならぬものがあつた。いつたい信子は無貞操なのだらうか。無貞操であるかも知れぬ。然し、凡そ肉慾的な感じがない。清楚だ。むしろ純潔な感じなのである。どこか、あどけなさが残つてゐる。それは、たとへば、香気のやうに残つてゐた。処女と非処女の肢体は服装に包まれたまゝ、ほゞ見分けがつくものであるが、信子は処女のやうでもあり、さうでないやうでもあつた。この疑問をいつか藤子にたゞしたとき、処女ぢやないわよ、藤子は言下に断定した。処女らしくすることを知つてゐるのよ。先天的にさういふ妖婦なのよ、と言つた。
けれども、信子のあどけなさ、清楚、純潔、それは目覚める感じであつた。それは、たしかに、花である。なんとまあ、美しい犯罪だらうかと谷村は思ふ。まるで、美しいこと自体が犯罪であるかのやうに思はれる。この人は無貞操といふのではない。たしかに先天的な犯罪者といふべきだらう。もしかすると殺人ぐらゐも――その想念は氷のやうに美しかつた。鬼とは違ふ。花自体が犯罪の意志なのだ。その外の何物
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